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研究?連携活動
RESEARCH / COOPERATION

補助事業番号  2023P-387
補助事業名   2023年度女性アスリートのパフォーマンス向上に関する研究 補助事業
補助事業者名  横浜商科大学商学部経営情報学科 スポーツマネジメントコース 永野研究室

1.研究の概要

 サッカーなどのオープンスキル(競技中に環境が絶えず変化し予測が困難な状況で発揮される運動スキル)を要するスポーツでは、競技中の視野から得られる情報を効果的に処理する知覚?認知スキルが重要とされている。
 本研究は、未だ可視化されていない女子サッカー選手のプレー中の視覚探索行為について可視化し、男子との比較を通して、女子サッカー選手の成長可能性について検証することを目的とする。
 また、可能な限り競技レベルの高い女子サッカー選手を実験の対象にすることで、得られた成果を目標値として広く共有する。特に、成長過程にある年代の選手に共有し、効果的な認知スキルトレーニングの実施と評価につなげることを期待する。


図1. 本研究の概要

2.研究の目的と背景

 2011年の女子サッカーW杯において、なでしこジャパン(女子サッカー日本代表の愛称)が優勝し、国内では女子サッカーに対する認知が拡大した。その効果は、2013年の女子サッカー選手登録数が初めて3万人を超えたことにも表れている。また、2021年には国内において女子のプロサッカーリーグ(WEリーグ)が創設された。国内に限らず、国際的にも、今後の女性スポーツの振興が期待されている一方で、女子サッカーの特有の魅力や、男子サッカーとの差別化については、大きな課題となっている。
 近年のスポーツ科学の研究領域において、女子サッカーを対象とした研究には、走行距離などの一般的な体力的な側面、さらには、女性特有の生理的な側面から、その可視化が進められてきた。一方で、プレー中の認知や判断に関わる心理的な側面については、未だ可視化されていないのが現状の課題である。
 サッカーなどのオープンスキル(競技中に環境が絶えず変化し予測が困難な状況で発揮される運動スキル)を要するスポーツでは、競技中の視野から得られる情報を効果的に処理する知覚?認知スキルが重要とされている。また、競技能力が高くなると、体力的なパフォーマンスの差は小さくなり、心理的なパフォーマンスがプレーの成否を左右することになる。体力的な側面では、男女差は大きく、その差を埋めることは現実的に難しいと考えられる。一方で、一般的な脳の構造と機能に男女差が認められないのであれば、認知的な側面において、女子サッカー選手は男子サッカー選手と同程度なパフォーマンスを発揮する可能性が期待できる。
 よって、本研究は、未だ可視化されていない女子サッカー選手の「プレー中の視野及び視覚探索行為について可視化し、男子との比較を通して、女子サッカー選手の成長可能性について検証することを目的とする。また、可能な限り競技レベルの高い女子サッカー選手を実験の被験者にすることで、得られた成果を目標値とできるようにする。特に、これらの知見を、育成過程にある年代の選手に共有し、効果的な認知スキルトレーニングの実施と、その評価に繋げることを期待する。  

3.研究内容

(1)女子サッカー選手の視覚探索活動の可視化

 関東女子大学サッカーリーグに出場する選手を被験者として(図2)、フィールド上で視線計測を実施し、選手の視野と視線の位置が可視化された映像(図3)を即時にフィードバックし、パフォーマンスについて議論した(図4)。一般的な「周りをよく見ろ」という典型的なコーチングから、具体的な対象として「いつ」「何を」「どのように」見ていたのか、さらには、何を見ていなかったのか、議論の解像度が上がり、プレーの改善につながる手応えを感じていた。特に守備時には、ボールからいつ目を離すかというタイミングについて、さらには、ボール以外の重要な情報について、プレーの状況と合わせて具体的に議論することで、視覚探索ストラテジーが明確になった。





図2. 視線計測装置(tobii)を装着する女子サッカー選手の様子



図3. 視線計測装置(tobii)を装着する女子サッカー選手の様子
(視野映像中の○が視線の向けられている位置を可視化している)




図4. 即時にフィードバックされた情報を確認しながら議論する様子

(2)女子サッカー選手の認知機能に関する調査

 関東大学サッカーリーグに出場する選手を被験者として、サッカーIQ(認知機能)診断ツールとして欧州でも活用されているNeurolepticsを実施した(図5?図6)。診断結果について男女で比較したが大きな差は見られなかった。




図5.認知機能診断ツールNeurotypesの教示を受ける選手たちの様子



図6.タブレットを使ってテストを受ける選手たちの様子

4. 本研究が実社会にどう活かされるかについての展望

 本研究では女子サッカー選手の認知スキルについて、視線計測及び認知機能テストによって可視化することを試みた。また、男子選手との比較を通して女子選手の特徴について検証した。その結果、男女の大きな差は見られなかった。一般の体力(運動スキル)では、男子選手との差は明確であるが、認知スキルでは女子選手の特徴を男子選手と同様に主張できることが示唆された。  実験的な手続き(被験者の量や質、実験状況)については、今後、改善の余地が大いにあると考えられるが、本研究の成果を手がかりに女子選手の計測や、認知機能の可視化、さらには、その獲得方法などについて、引き続き丁寧に検証する必要がある。加えて、女子サッカーを観戦する際の魅力などについても新しい情報が提供できると考えられる。

5. 教歴?研究歴の流れにおける今回研究のいちづけ

 本研究において取り入れた具体的な手続き(認知機能の評価と視覚探索活動の記録)は、これまでの実験手法を発展させることができた。今後の研究歴においては、本研究で導入した最新の視線計測装置をさらに活用することで、女性アスリートのパフォーマンス向上はもちろん、それ以外の多くの分野でも意義のある成果が期待できる。

6. 本研究に関わる知財?発表論文等

特になし

7. 予想される事業実施効果

現在、多くのスポーツ競技においては、男性の体力的なパフォーマンスに重点が置かれ、スポーツの魅力についてもその量的な側面が注目されているが、認知や判断といった点では、女性アスリートの質も高いことが可視化されることによって、性別を超えた共創が期待できる。

8. 補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの
   特になし

(2)(1)以外で当事業において作成したもの
   特になし

9. 事業内容についての問い合わせ先

?所属機関名 : 横浜商科大学(ヨコハマショウカダイガク)
?住   所 : 〒230-8577 神奈川県横浜市鶴見区東寺尾4-11-1
?担 当 者 : ティームリーダー 栗原正勝(クリハラマサカツ)
?担当部署  : 学術?地域連携部(ガクジュツ?チイキレンケイブ)
?E-mail   : renkei@shodai.ac.jp
?URL   :  /